#25 「彼らのような落語者はただのピエロだ」
2019年公開映画『ジョーカー~JOKER』分析
Joker 2019 - That’s Not Funny Scene
テレビでトーマス・ウェインがインタビューを受けています。
地下鉄で殺された3人がウェイン・インベストメントの社員であったことで意見を求められ、彼は犯人について「自分より恵まれた人たちを恨みながら、自分の顔を見せることさえ怖がる。我々が築いたこの社会で彼らのような落語者はただのピエロだ」と言い放ちます。
この発言こそが、ピエロのデモを始めた人々を怒らせた一言なのでした。
つまりピエロのデモは、社会の混乱がベースにあったものの、本当の原因はこのトーマス・ウェインの発言であって、アーサーが引き金であったわけではありません。
もう一回書きます。デモや暴動が起こった原因をつくったのはトーマス・ウェインです。
あとで彼はこの発言をごまかすようなことを言って自分を正当化しようとし、自分が嘘つきであることを証明しました。
トーマス・ウェインに責任があり、彼はダメなやつです。
もちろんアーサーの殺人はいいことではありませんが、アーサーが暴動を扇動して街を燃やしたように言われるのは理不尽です。
誰でも考えることですが、ここでトーマス・ウェインが犯人について「自分の顔を見せることを怖がる」と言ったので、アーサーの妄想の産物であるバットマンはマスクをして戦うことになりました。
この映画の中では、バットマンはアーサーの妄想です。
映画を見てくれた人にそう知らせるために、トーマスのこのセリフがあります。
どうしてコウモリになったのかは謎ですが(笑)。
シナリオにはなかったシーンが付け加えられています。
トーマス・ウェインがテレビの中で喋るのを聴きながら、アーサーは貧乏ゆすりをして少し笑っています。怒っています。
母親がこう言います。「おかしくないわ」
アーサーが、神経過敏になると笑いの発作が出ることを知っているはずの母親が「おかしくないわ」と言うのは、不自然だと思いませんか? ここは「どうしたの?」と聞くところです。それなのに、まるで心外そうな顔で「おかしくないわ」と言いました。
そう、この母親は実は息子に興味はなく、自分とトーマスの方が大事。それがよくわかるシーンです。
「トーマスが立派なことを言っているのに、笑うなんてどうかしているわ」などと考えていそうです。