#9 上司の部屋
2019年公開映画『ジョーカー~JOKER』分析
アーサーは、楽器店の仕事中に消えて看板も返却していないと上司のホイトに怒られます。
「襲われたんです。聞いていないですか?」とアーサーは言いますが、ホイトは信じません。
ここで前のシーンのランダルのセリフを思いましますと、仲間はみんなアーサーが襲われたことを知っていました。アーサーは襲われたことを誰かには報告したはずです。それを上司が聞いていなかったのは誰の手違いなのかわかりませんが、ホイトがアーサーの言葉をまったく聞く気がないことがこのシーンからわかります。自分は親切だと白々しく言いながら、一方的です。
アーサーの上司はアーサーに親身ではないことがわかるシーン。
そしてアーサーは言われっぱなしです。「襲われたから看板を返せない」とはっきり主張することは、アーサーにはできないのです。
尊重されて育った人にはこれは理解できないところでして、赤ん坊の時から何を言っても聞いてもらえないで育つとこうなります。
アーサーを責めるのはかわいそうなところです。
アーサーは信じてもらえなくて怒りでいっぱいになりますが、顔は笑顔になっていきます。赤ん坊の頃から、生きるために感情をおさえて笑ってきたわけです。
ジョーカーの解説をしている動画で、ここのシーンを「社会人としてきちんと報告もしないジョーカーが悪い」と言っている方がいらっしゃったのですが、その人は、言いたくても言えないアーサーのつらさを理解できない、幸せな育ちの方でした。
この映画は、理解できないほうが幸せです。